少しひねくれた、誕生日をめぐる大人の物語。【後編】

万城目学さんが誕生日を迎える人のために書き下ろした新刊『魔女のカレンダー』。凝った装幀が話題ですが、デザインには万城目さんのアイディアが生かされているとか……?

小説家として新たな境地に至ったという最近の変化についても伺いました。

本作の書籍は、本型の函に入っています。函のデザインについては万城目さんからアイディアをいただきましたよね。

本型の函というイメージは初期の打合せから聞いていましたが、せっかく函を作るのであれば、物語と絡んだほうが深みが出ると思いました。函の装幀については僕からある提案をしまして、読み終わった後に分かる仕掛けがあります。ここではあえて詳しく言いませんが、その辺りもぜひ楽しんでいただきたいです。そうそう、函の表面に植物のイラストとともに記された文字はルーマニア語なんです。これも仕掛けのひとつなんですが、ゲームデザイナーの小島秀夫さんに本作を献本したら、インスタに上げてくれて。小島さんは世界中にファンがいますから、ルーマニアの人たちが、「kojimaがルーマニアについてメンションした!」と大盛り上がりしていて。おお、本当にルーマニア語だったんだ! と驚いた半面、完全にぬか喜びさせてしまったルーマニアのみなさんにちょっと申し訳ない気持ちになりました。

ちょっとした仕掛けのある函も含めて、バースデープレゼント用の本ということで豪華な装幀の本になりました。実物をご覧になってみて、いかがですか?

今まで20冊くらい本を出してきましたが、こういうタイプの本ははじめてなので、自分でもちょっとドキドキします。本の表紙も函も箔押しになっていますが、箔にすると一気に上品になって雰囲気が出ますね。誕生日にプレゼントとして本をもらう経験をしたことがある人って、そうはいないはずだから、非常に満足度が高いと思います。これが届いて、開けるとバースデーカードも入っているし、感激してもらえるんじゃないかな。実物を手に取ったらすごく欲しくなると思うけど、オンラインのみの販売だからジレンマがあります。この良さが伝わるといいですね。

本作もちょっと珍しいタイプの本となりましたが、この1年はご自身で同人誌を作っての文学フリマ参加や、ひとり出版社としての万筆舎の活動、直木賞ご受賞など色々な出来事がありましたよね。『六月のぶりぶりぎっちょう』を読んで、作家としての万城目さんの第二期がスタートしたように感じました。

あの本は「三月の局騒ぎ(以下、三月の〜)」と表題作の2作収録しているんですが、「三月の〜」は『魔女のカレンダー』を書き終えた次に書いたもので、表題作の方は数年前から温めていたもの。並べるとよく分かるんですけど、作品としての質が全然違うんです。「六月のぶりぶりぎっちょう」は若い世代の人から面白かったと言われがちです。一方、40代、50代以降の人は断然「三月の〜」が良かったと言うので、年代で反応が違うのが面白いですよね。

現在、最新作と言えるのが短編としての「三月の〜」ですが、作品の中で全部説明しなくても言いたいことを伝えられるようになった気がしています。書いている時はどちらにしろしんどいんですが、ガチガチに全身の筋肉を緊張させて全力で投げるよりも、力を抜いて投げた方が、「皆まで言わず」という結果になって、出来としてもよくなるのが、分かってきたような……。

これまでのご経験を経て、少しモードが変わられたのかもしれませんね。万城目さんが今後書かれる作品も気になります。 

今は2、3年前から書こうと思っていたものをようやく書く順番が来ています。扱う題材は昔考えたものなんですが、これからは書き方が変わっていくのか……。どうかな。作家って振り返ることしかできませんからね。書き上がってやっと、自分の力や、自分が何を考えていたかがわかるところがあって、書く前にイメージしていたものと出来上がったものは大分違っているものなので。

こだわりも薄くなっているのかもしれません。以前は、万城目色を出そうとか、それなりに意識していたように思うのですが、もう放っておいても、染みついたものが勝手ににじみ出してくるような感覚です。デビューから20年近くやってきて、職人っぽくなってきたということかもしれません。だからこそ、これからは今までと全然違うことをやってみてもいいんじゃないかという気もしています。今後書くものがどんなものになるのか分からない部分もありますが、自分でも楽しみです。

photo  YUKO NAKAMURA

万城目学 (まきめ・まなぶ)

1976 年 2 月 27 日生まれ。2006 年『鴨川ホルモー』でデビュー。2024 年『八月の御所グラウンド』で第 170 回直木賞を受賞する。著作に『鹿男あをによし』『偉大なる、しゅららぼん』『プリンセス・トヨトミ』『とっぴんぱらりの風太郎』『悟浄出立』『バベル九朔』『パーマネント神喜劇』『ヒトコブラクダ層戦争』『あの子とQ』『六月のぶりぶりぎっちょう』などがある。 

関連情報

2024/07/20発売

魔女のカレンダー

万城目学