ご挨拶
本は私にとって、いつも新しい世界を見せてくれる窓のような存在でした。田舎で生まれ育った私に見知らぬ都会の、異国の、過去の、時に実在しない幻の景色を見せてくれたのが数々の物語です。本に夢中になって過ごしていたある日、眺めるだけだった窓が実は世界に通じるドアだったことに気がつきました。自分はどこにでも行けるのかもしれない──。その発見は、思春期の私の日々を照らす光でした。
その後、成長した私は幸運にも憧れていた文芸編集の職に就くことができました。才能ある書き手の方達や本づくりに携わる様々な方達とお仕事をさせていただく中で芽生えてきたのが、更に自分の関心や問題意識を生かした出版活動をしてみたいという気持ちです。
16年間お世話になった会社を離れ、2023年春に新しいドアを開けることになりました。どこへ通じているのか全く予想もできません。眩しさに目が眩みそうになることもあります。それでも、今は物語の光が指し示す方向に進んでみたいと思っています。本が見せてくれる新しい世界に夢中だったあの頃のように、未知の景色に胸を躍らせながら。
2023年12月 照山朋代