
- インタビュー
- 2025年2月4日
性別も年齢も越えて、誰にも届く物語を(前編)
昨年12月に新刊『緑の鳥』を刊行された三浦しをんさん。「GIFT STORY−Birthday−」と名付けられたシリーズの第二弾である本書は、誕生日などのプレゼントのために書き下ろされた作品です。ゼロから物語を創る過程を伺いました。
photo YUKO NAKAMURA
photo KOBAYASHI
――しをんさんはいつも大変お忙しく、様々な執筆依頼もあると思いますが、この企画の話を聞いたときの最初の印象と、引き受けると決めた要因を教えてください。
誕生日に限らず、本を贈り物にするというのはとてもいいことだと思いました。そしてこのシリーズでは、装幀が、それぞれの本に合う手作りの、そして豪華なものであるということに惹かれました。私、装幀大好きヒューマンなので(笑)、どんな装幀になるのか楽しみでした。
――執筆にあたって、まず思い浮かんだアイデア、最初の原点はなんだったのでしょう。
誕生日のプレゼントという企画ですが、どういう方がどういう方に差し上げるのかが分からないので、もらった方が「これは自分の話ではないな」と感じることがないような話にしたいと思ったんです。年齢性別にかかわらず、あげる人、もらう人が、登場人物とすごく近い、あるいはすごく遠い、と感じることがないように、フラットな視線で読める物語がいいかな、と。せっかくプレゼントしてもらったけれど、私自身の話じゃない、とは思ってもらいたくなかった。

――なるほどー。いいお話を聞きました。
ちゃんと考えて書いてるんですよ(笑)。SFの設定にしたのも、年齢とか性別に関係のない世界にするためです。現実の世界とは違うから、読者にも一定の距離感を持って接してもらえる。納得しやすく、お約束も飲み込みやすいだろうと。SFの要素をいろいろ考えるのは楽しかったです。私計算が苦手なので、本職のSF作家の方の作品と比べると、絶対アラがあるとは思うんですけど(笑)。
――SFのヒントになったものはありますか。大きい要素としては、年月の流れ方が現実の世界と違います。
昔は少女漫画にもSFが多かったんです。抒情的でなおかつスケールが大きい、いいSFがたくさんありました。竹宮惠子先生や萩尾望都先生はもちろんのこと、白泉社は90年代ぐらいまではSFがかなり多く、清水玲子先生、樹なつみ先生、明智抄先生などの傑作がありました。SFは切なさと切り離せない、そこも大事です。
――時間による切なさ、ということが最初にあったわけですね。そこで、「時間を旅していく二人」の物語が生まれた。
そうですね、性別がないというのも、SFでは昔からある設定なので。
――性別がないし、生殖がコントロールされている。つまり親とか家族が存在しない社会ですね。カップルになっても親になることはない。その分、カップルの結びつきは大切なのかな、とも思いました。
そうかもしれない。でも、主人公の二人は性的な意味でもパートナーですが、そうでない人たちもいるんじゃないかな。疑似家族じゃないけれど、シェアハウスのように仲間で暮らしたり。家族制度や親子の概念がなくても、この社会の人たちはなんらかの人間関係を作って、コミュニティで支えあって暮らしているんだろうと思います。

――二人の背後ではそういう人たちも生きている。生きやすい世界でしょうか。
そうだといいですけれどね。
――主人公二人のネーミングはどのように?
無機質な感じにしたかったんです。この世界のヒトの誕生のありかたって、今の私たちの世界とは全然違う。たぶん、生まれたらまずは番号をふられるようになるのではと考えた。それで1でワン、2と3でフミ。そもそも性別という概念のない世界なので、性別も特定できない名前にしたかったんです。
――ピーヨという存在は、最初に思いつかれたんですか。
そうですそうです。火星のコロニーだから土地も限られるし、あんまり動物は飼えないのではないかと想像しました。土地だけでなく餌もないかもしれない。だから、たぶんペットロボットが人気なのだろうと。もちろん賢くて可愛いペットロボットもいるんでしょうが、小説に登場するのはやはりポンコツがいいかな、と(笑)。何の動物にしようかと考えたとき、まずはしゃべって欲しかったんです。オウムとかインコとか、鳥がしゃべるのは自然じゃないですか。犬がしゃべると、ちょっとびっくりしてしまう。
そして、緑色にしたかったんです。植物を連想させるから。ワンとフミの出会いのきっかけも植物だし、無機質な火星の世界で、この二人は植物とか、そういうものが好きな二人。だから鉢植えのある喫茶店を選ぶんですね。緑色の動物とすると、トカゲか鳥。トカゲがしゃべっても別にいいんだけど……。
――それでインコになったわけですね。ずうずうしいけれど憎めない。
この世界でも、すごい金持ちなら本物のペットを飼えるのかもしれない。現代の都心の駐車場と同じで、お金さえ出せば(笑)。
(後編に続く)
関連情報
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2024/12/18発売
緑の鳥