気になる本づくりの現場を訪ねて・岡山紙器所編

photo  YUKO NAKAMURA
text ミモザブックス編集部

万城目学さんの『魔女のカレンダー』では、誕生日を迎えた主人公の身に起きる不思議な出来事が描かれる。作品の内容も装幀も誕生日プレゼントに特化したユニークな一冊だが、ひときわギフトとしてのスペシャル感を醸し出しているのが洋書風の函だ。著者の万城目さんと函を製作した岡山紙器所を訪ねた。

都内某所にある岡山紙器所は1951年創設の歴史ある会社。長年に亘り、本に関わる様々な函を作ってきたそうだ。所内には珍しい機械が沢山並んでいた。パッと見るだけでは何をする機械なのか全く想像がつかないものばかりだった。

機関車のように黒光りする「ハイデルベルグ」を覗き込む万城目さん。紙や布を打ち抜く際に使用されるそうだ。

メンテナンスしながら何十年も使いつづけている機械ばかりだそうで、もうメーカーが廃業されているところも珍しくなく、一つ一つがとても貴重なものとのこと。職人の方が微調整しながら使っている様子を実際に見て、機械の希少さに加えてそれを使いこなせる人材が揃っている場所も非常に珍しいのだろうと感じた。

この日は『魔女のカレンダー』の函の仕上げの作業をして下さっていた。

本作の函は万城目さんからご提案をいただき、作品の内容と深く関連するデザインにすることにし、函の形も本に見立てたものとなった。函の表紙にあたる部分にはルーマニア語で、ある本のタイトルと著者名が箔押しされている。

箔押しの工程は岡山紙器所と同じ建物内にある小林箔押所が担当下さったそうだ。箔押しを終えた表紙部分がずらりと積まれていた。

機械で表紙を流し、内箱と接着させる部分に糊を塗っていく。

糊が塗られた表紙裏に、手作業で内箱を接着する。数ミリでもずれると見栄えに影響してしまうので細心の注意が必要とのことだった。

集中力が試される作業……! 

内箱と本の背の部分を接着する時にはまるで拳銃のような道具(「ホットメルトのガン」と呼ばれていた)を使用して、熱で溶かした糊を付けていた。

万城目さんが「使用している糊って、市販のものよりも強力なんですか?」と質問すると、「一瞬でくっつきます。それに紙によって糊の種類を変えています」とスタッフの方。強力な糊である分、はみ出したり、接着部分を少しでも間違ったりすると取り返しが効かないだろうことが窺えた。

お話を聞きながら、内箱の中に入れる仕切りが並んでいるのに目を留めた万城目さん。

内箱の中に入れ、本がずれないよう固定するためのもの。元は厚みのある一枚の紙で、折り目に従って折り、凹凸を付けている。

「やってみてもいいですか?」と万城目さんは仕切りの組み立てにチャレンジすることに。

「山折り、谷折り……あれっ?」と呟きながら組み立てていく万城目さん。

無事、完成! 
内箱にセットすると、ばっちり本にフィットする。

万城目さんが作業されている様子を見ていたら、全部の函の分を職人さんたちが手作業で組み立てて下さっている様子がありありと想像できて改めて驚嘆した。全部手作業というのは本当に大変なことだ。

完成した函。全体の工程について伺った後だと、より一層輝いて見えた。
職人さんたちの手業から生まれた函入りの特装本が、どうか沢山の方の元に届きますように。

岡山紙器所のみなさん、お邪魔致しました!

関連情報

2024/07/20発売

魔女のカレンダー

万城目学